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国際学部

Faculty of International Studies

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国際学部ニュース詳細

更新日:2024年06月11日

研究紹介

【国際学部】LIVE時評「イタリアの欧州議会選挙キャンペーンを見て」(八十田博人教授)

八十田博人

 

 6月6日から9日にかけて投票が行われた、EU(欧州連合)の欧州議会選挙のキャンペーンを見るために、投票直前の数日、イタリアの首都ローマに滞在した。以前、2016年12月のイタリアの国民投票キャンペーンを見たときの感想を、このホームページに「LIVE時評」として書かせてもらったが、やはり、外国の事情を考察する学問では、現地の空気感や文脈を知るのは重要である。

 少し前にローマ教皇が2025年を聖年(25年ごとにほぼ定例)とする宣言をしたので、それに備えてローマ市内は工事だらけとなり、折からパレスチナ停戦を訴えるデモも起きていて、到着した夜は乗ったタクシーがなかなか市内中心部に入れず、遠回りを強いられ大変だった。

 

テルミニ駅前のヨハネ?パウロ2世像と2025年聖年に備えた工事幕
(本人撮影、以下同じ)

 

 近年、イタリアでは選挙キャンペーンのSNS利用、デジタル化が進み、テントを張ってのビラ配布や掲示板のポスターはほぼ見られなくなった。代わりに、ローマの中央駅テルミニ前を行きかうバスの車体広告や、駅構内の広告用液晶大画面には各党の広告が溢れていて、ほぼすべての政党のスローガンの復習ができた。同じバスでも側面と後ろで違う政党の広告が貼られているものもある。

イタリアはNATOの一員としてウクライナに武器供与をしているが、国内では戦争のエスカレーションを恐れる世論は強く、特に左派政党の主張に平和を求める気持ちが反映されている。一方、今回躍進が予想された右派には、EUへの挑戦的な態度や、イスラムや移民への反感を煽る宣伝が見られた。

 

イタリアの同胞(右派)「ジョルジャ(メローニ首相)とともに、イタリアがヨーロッパを変える」
左=緑?左翼連合(左派)「戦争か、平和か、どちらのもとで生きるか決めてください。」右=民主党(中道左派)「いっしょに、私たちが望むヨーロッパのために」

 

五つ星運動(中道左派)「信頼されるイタリア、ヨーロッパの主役」シンボルマークの2050はEUのカーボンニュートラル実現年、ハッシュタグは「平和」。
同盟(極右)「イスラム過激思想をストップ」

 

 ヨーロッパでは、各政党の集会は、コアの支持者向けの室内の集会のほかに、大都市では広場を使って大規模な集会が行われる。日本でも駅前などに選挙カーを停める街頭演説はあるが、しっかりと舞台を組んで大規模な野外の集会を行える大きな広場がない。ヨーロッパの場合、大都市にはこうした広場が複数あり、広場ごとに「ここで誰それがどういう演説をいつした」といった歴史が刻まれており、それを踏まえて会場を選ぶことも多い。

 今回、イタリアの第1党で右派政権与党の「イタリアの同胞」の選挙キャンペーンを締める最終集会が行われたのは、ローマ市街の北にあるポポロ広場である。ポポロ、つまり「人民」の広場という名前も、エリートでなく人民の代表を自称するポピュリスト政党にふさわしいが、この政党が2012年に結党したときに集会した場所でもある。現役の首相が来るため、警察や憲兵隊(国家治安警察)の広場周辺への配置はもちろん、上空を2機のジェット戦闘機がそれと分かるくらいに近く、爆音を上げて旋回を繰り返した。

 ポポロ広場は大きな広場だが、ほぼ円形の広場全体ではなく、半分強ほどの位置まで党のテント(支持者に配る旗や飲料水が置かれる)が幾つか並べられ、その後ろは自由に通行できる。テントの前も人は密集しておらず、人の間を抜けて通行はできる。カメラはさらに舞台に寄った台上にセットされ、その前には熱心な支持者たちがびっしりと詰め党旗や国旗を持ち、カメラ前方を埋め尽くす。だから実際には広場の半分に満たないくらいでも、広場を埋め尽くすような絵が撮れるのである。

 

広場前方は熱い支持者の旗で埋まる
広場後方から演壇を見る

 ラジオDJのような弁舌さわやかな司会の進行で、まず党の宣伝ビデオ「私はジョルジャに投票する」が大画面に移された後、欧州議会選挙の各選挙区の候補者、また同日投票の地方選挙の候補者たちが紹介され、マイクを採った。日本のように辛気臭くまじめに皆が聞いているわけでもなくて、前方の熱心な支持者は歓声を上げるものの、広場全体はガヤガヤしていて、仲間と再会を喜びあって記念写真を撮ったりしている。次に欧州議会の同党議員団長などが演壇に上がり、最後に党首であるメローニ首相の登壇となった。

 

演説するメローニ首相(「イタリアの同胞」党首)

 メローニは欧州議会でも欧州保守改革派グループ(右派、欧州懐疑派)のリーダーである。今回の選挙でも党の比例名簿(欧州議会選挙はすべての加盟国で比例代表制で行われる)の筆頭候補となっているが、欧州議会議員は各国政府閣僚と兼任はできない。もちろん、首相を辞めるはずもなく、あくまで彼女の名前で集票する目的である。

 メローニ首相の演説の内容は、以前与党だった現野党の左派と実務家たちの政治が国民を軽視したエリート支配だという従来からの主張を論点ごとに繰り返したうえに、雇用増(ただし非正規が多い)など、自らの右派政権の実行力を訴えたものだった。左派はイデオロギー的で、自分たちはプラグマティックだというのは、メローニに限らず、同党の政治家がよく言うことである。迫力ある弁舌は彼女の得意とするものだが、政権を担当することになったために、野党時代と違い話題は必然的に広範な事項にわたり、ややテーマが拡散し、1時間に及んだ演説は途中ダレるときもあった。熱心な支持者でなければずっと聞き続けることは難しかったと思う。

 左派政治家の失言は格好の攻撃材料で、直前に野党?民主党のデ=ルーカ?カンパーニア州知事が知人との電話でメローニのことをstronza(いやな女)と呼んでいた映像が流出し、同知事と会見時にメローニがデ=ルーカを睨みつけながら「こんにちは、いやな女メローニです」と挨拶していたこともネタになる。自身がイタリア初の女性首相であることを踏まえ、「私は右派だが、女性はまず女性として尊重されるべきなのではないか」と、ここぞとばかり左派を責めた。会場内には、支持者のなかに「われわれはみな stronzi(いやな人たち)だ」と書いたベストを着た人もいた。

「イタリアの同胞」はナショナリスト政党なので、演壇に立った政治家たちは、たとえば中国やインドを念頭に「アジアの巨人たち」でなく、西洋が世界の主役であるべき、などといったことも言うので、イタリア人でない私はなかなか共感はできない。とはいえ、お祭りのようにガヤガヤしたオープンな広場で政治家たちが堂々と演説する、イタリアや欧州に根づいている「広場の政治」は、過去にそれがナチスやファシストによっても利用されたとはいえ、やはり民主主義の基礎ではないか、日本の政治活動はもっと自由に、言葉の力によってなされるべきではないかという思いも新たにした。 

 なお、今回の滞在中に、イタリア共和制の基礎を思いださせる二つの出来事があった。

一つは、今年はファシスト政権を批判した統一社会党のジャコモ?マッテオッティが暗殺されてから100年で、彼が最後に演説した5月30日に大統領と歴代下院議長が参列した集会が下院で行われた。ネオ?ファシストの後継政党を率いるメローニ首相も、マッテオッティをファシストの暴力の犠牲者であると認めたが、さすがに歯切れは悪かった。ローマ市内の博物館ではマッテオッティの生涯を振り返る展覧会が行われていた。

 

マッテオッティの回顧展の看板、日本の浮世絵展も同時開催

 もう一つは、イタリアの祝日である共和制成立記念日(6月2日)である。これは1946年にイタリアが戦後の国家体制を共和制と君主制の二択の国民投票で決めた日であり、同時に憲法を制定する議会の選挙が行われ、これが女性が初めて投票する選挙となったのである。この日はコロッセオからヴェネツィア広場に向かう皇帝広場通りで軍事パレードが行われるが、これはVIPのみの参列であるものの、一般の人が見られるものとして、大統領官邸のクィリナーレ宮の前では騎兵隊のパレードが行われ、上空に空軍がイタリア三色旗の帯を描いた。

 

大統領官邸の騎馬隊パレード
大統領官邸(クィリナーレ宮)上空に描かれた三色旗の帯

 こうした歴史を回顧させる機会はたまたま選挙期間に重なったものだが、イタリア国民に民主主義とは何かを改めてよく考えさせる機会になっていたと思う。