Faculty of International Studies
更新日:2017年12月25日
【国際学部】学部講演会(柳澤寿男氏)を開催しました。
12月7日(木)、指揮者の柳澤寿男氏をお迎えして、「音楽を通じた民族融和事業」をテーマにした国際学部講演会を実施しました。
柳澤氏は、首席指揮者を務めるコソボ?フィルハーモニー交響楽団をはじめとして、国内外の様々なオーケストラで指揮をするとともに、民族共栄を願ってバルカン室内管弦楽団を設立し、ヨーロッパの火薬庫と呼ばれたバルカン地域の民族融和事業に積極的に取り組んでいます。
コソボは、1999年のコソボ紛争を経て国連の統治下に置かれた後、2008年にセルビアから独立した国ですが、柳澤氏が2007年にコソボフィルの指揮者に就任した当時は、停電や断水が頻繁に起こったり、時間にルーズで練習時間になっても団員が誰も来ないなど、生活もオーケストラの練習にも苦労したそうです。何故、時間通り来ないのか、何故、事前に練習してこないのか、海外に行ったら日本の常識は通じないということを痛感したそうです。そんな苦労を乗り越えて、初めてのコンサートを首都のプリシュティナで開催した際には、聴衆から大喝采を受け、「戦争になったら楽器ではなく銃を持って戦う」と言っていた団員が「音楽家はあのようなことを言ってはいけない」と反省する姿を見て、憎しみを音楽でなくせるのではないかと感じたとのことです。
そんなコソボで、ある時、急激な腹痛に襲われ、医者からappendixと診断されて手術を勧められたものの、不安にかられて、痛みをこらえながらどうにかドイツにたどり着いたところ、やはりappendixとの診断で緊急手術を受けるはめに。しかし、2日後にはプリシュティナに戻り、座りながら指揮をして、翌日の新聞に、「サムライ?スピリット」と書かれて賞賛されたというようなエピソードも披露してもらいました。因みに、appendixが盲腸のことだとわかったのは、手術が終わってからだったそうです。
そうした苦労を重ねながら、コソボフィルでの活動も軌道に乗りかけてきたころに、多民族のオーケストラを作ることを決意し、多くの試練を乗り越え、国連や地元自治体などの協力を得て、2009年9月に、セルビア系とアルバニア系民族が川を挟んで分断されたコソボ北部のミトロヴィッツア市において、双方の地域で、セルビア系とアルバニア系民族合同によるコンサートを開催。その後、クロアチア人やボシュニャク人等、オーケストラに参加する民族も増え、定期的に各地でコンサートを開催するようになったところ、2014年には、第一次世界大戦のきっかけとなったサラエボ事件から100年の節目に、サラエボ国立劇場でベートーベンの第九平和祈念コンサート、また、2016年10月には、ジュネーブの国連欧州本部で、日本の国連加盟60周年を記念したコンサートも開催しました。日本でもこれまで数回演奏会を開催し、来年9月に再度来日公演を行う予定だそうです。バルカンだからしょうがないと言われないよう、また、多民族によるオーケストラということだけで注目を浴びるのではないようにするためにも、さらに音楽のレベルを上げることに努力していきたいということで、来年の演奏会が今から楽しみです。
今回の90分にわたる講演では、コソボでの生活や、バルカン室内管弦楽団の設立に関わる苦労話を聞いたり、バルカンに関する様々な写真を見せていただき、この地域に普段接する機会のない学生も、バルカンの状況や、音楽の持つ力について理解を深めたことと思います。また、海外に行ったら常識の壁がある、途上国で病気になったらどうするか常に考えておいた方がいい、民族の違いを乗り越えた「地球市民」という考え方が大切等々のメッセージもいただき、示唆に富む講演会でした。