更新日:2016年04月10日
フランス語?フランス文学専修
受験生へのメッセージ(田口 亜紀)
Maoさんは、1年次の文芸ゼミナールから4年次の卒業ゼミナールまで、田口先生の授業を4年間受け、卒業しました。今回、田口先生の研究室を訪ねて、先生と対談しました。
田口:Maoさん、卒業論文に「『家なき娘』における子供像」というテーマで、真剣に取り組みましたね。約4年間、Maoさんは、フランス語力、論文を書く文章力、持続して研究対象に打ち込む精神力、そして知性と冷静な判断力を身につけたと思います。学び、遊び、それにアルバイトにおいても、何事もおろそかにせず、一つ一つの課題を真剣にこなして、すべてを糧としたからこそだと思います。
Mao:ありがとうございます。様々なことに興味を持ち取り組むうちに、自分のやりたいことや頑張りたい事が明確に見えてきました。それからは残りの年月があっという間に過ぎていきました。時に無駄に思えるようなことも、見方を変えてみたり、時間をおいて考え直してみると、無駄と思えていたことも確実に自分の糧になっていました。過ごす時間を無駄だったと思わず、そう思えた時間にもすべてに意味があると思うこと。そう考えるか否かで4年間はとても意義のあるものに変わるのだと学びました。
田口:文芸学部の特徴は、1年次に7つのコースの授業をつまみ食いして、2年次から自分が勉強したいコースを選んで、進学できることですが、Maoさんは入学当初からフランス語フランス文学コース(通称:仏文コース)への進学を決めていたのですか。
Mao:そうですね、私は入学当初から仏文コースに入りたいと思っていました。フランス語って、日本人の私たちにとってみればあまりなじみのない言語ですよね。でも、実際に世界的にはたくさん使われている言語なのです。私がよく息抜きをするときに行く町に「神楽坂」という町があります。ここは芸子さんが実際にいるような古い日本の街並みがそのまま残っている町なのですが、実はフランス人の方もたくさんいます。周辺にはフランス語学校やフランス料理のお店もたくさんあり、すれ違う外国人の方はかなりの確率でフランス語を話しています。日本とフランスが融合した、不思議な町です。身近なはずのフランス語がなぜなじみがないと思えるのか。私は不思議に思っていました。大学でフランス語やフランスの文化、文学といった事を学ぶことで、そういった疑問も解決するのではという思いもあり、このコースを選択しました。あとは、フランス語ができたらかっこいい、という単純な理由も少しありますね(笑)。
田口:仏文コースの魅力は何だと思いますか。
Mao:このコースの魅力といえば、まず「アットホームで学びやすい環境」が思い浮かびます。フランス語という、新しい言語を専攻して学ぼうと思うには不安があるかもしれませんが、そのように思う必要は全くありませんでした。このコースは現在1学年15名程で構成されていますが、それに対し教えてくださる先生が他コースよりも少ないということはありません。授業内でわからないことや疑問に思ったことがあれば、すぐに質問できるような環境になっているからです。
田口:私の授業では、受けている人が全員、疑問に向かいあい、自分で考えて理解することがまず重要だと考えています。授業の主役は先生ではなく、受けている学生一人一人です。私は、割とハードな課題を出したり、受講生からの質問に答えたりする一方で、ヒントを出すことで、学生が自ら気づいて、内容を理解できるようになる場合や、学生同士で考えを話し合ったり、教え合う方が効果的な場合は、後ろから見守っています。結果的に、学生が一人ひとり主体的になり、知的な意味で楽しい授業になるのだと思います。Maoさんにとっても、授業では適度に緊張しながら、居心地がよい、というのが理想ですよね。
Mao:そうですね。やはり学生側が受けるだけの授業というものは受け身になってしまうことが多いかもしれません。田口先生をはじめとする仏文コースの先生方が行ってくださる授業では、授業中に喋るなと言われることもほとんどありませんでした。とはいっても私語をしているのではなく、その時にふと出た疑問が口をついて出てきてしまったものに対して周りの子たちが様々に声を返すというようなものがほとんどです。そういったとき、先生方はしばらく黙って聞いてくださいます。そして少し経ったあとで、どの部分で何を思ったのか聞いてくださり、解決に導いたり、あるいは補足をしてくださいます。自分で考え、ディスカッションをする場をとっさに作ってくださるというのは、学習において素晴らしい効果を上げてくれると思っています。
田口:ところで、Maoさんは3年生の時に、共立祭(大学祭)で仏文コースの有志の学生が上演する「フランス語劇」に参加して、熱演していましたよね。モリエールの『ドン?ジュアン』で、誘惑者にあやうく騙されそうになる村娘を演じました。フランス語のみで上演する劇に参加して、どんな感想を持ちましたか?
Mao:今まで学んだことを生かしそれを発表する機会を得られて、とても貴重な経験をすることができました。学年の垣根を超え、1年生から4年生までで意見を言い合い一つの作品を完成させていくという作業は、時に悩み衝突することもありましたが、それだけ一人ひとり自分の役割を考え行動した結果なので質の高い作品を仕上げることに繋がり、劇が成功できたのだと思います。
田口:マーニュ先生と私は、時代背景や作品解釈についての説明や、発音の指導は行いましたし、仏文研究室の助手もサポートしていましたが、配役や演出は、役者?裏方を含めた参加者で話し合って決めていました。その結果、劇をやる前と後では、一人ひとり、人間が違ったようになりました。一つの目標に向かって団結する、ぶつかり合いの中で解決策を模索した結果、フランス語の上達はもちろんのこと、人間の幅が広がったのだと思います。
田口:おまけに、Maoさんは劇に参加しながらも、部活にもきちんと出ていましたよね。共立祭の日に、Maoさんがダンス部の発表会でしなやかに踊っているのを見にいきました。
Mao:私は「競技ダンス部」という部活に所属していました。週に5日は練習している本格的な運動部です。これに所属したのも、大学に入ってから新しいことをしたいと思ったことからですが、毎日ダンスをするうちに、ダンスがどんどん好きになっていき、部活なしの生活が考えられなくなりました。自分がやりたいことと勉強を両立させようと思っても、きっと、どちらかがおろそかになってしまうのではないかと、1年生でコース選択をするまでは不安に思っていましたが、きちんと両立できています。このコースのおかげで勉強と自分のやりたいことを両立してやってくることができました。
田口:それはよかったです。Maoさんは入学時から仏文コース進学を決めていましたが、コース選択をする10月には、迷っている1年生を見かけます。Maoさんもご存じの通り、私は文芸ゼミナールで、「パリを歩こう」と題して、履修生にパリを一日散策するコースを考えてもらっています。3人グループを組んで、文化的背景を理解しつつ、ファッション、グルメや美術といった興味にも合うように、テーマを決めて調べます。文献の調べ方、プレゼンテーションの仕方、さらにレポートの書き方を自ら学んでいくのですが、今まで知らなかったことを発見し、フランスの魅力にとりつかれて、仏文コースを選択する人もいます。実は、「フランス語」は履修しているだけで、コースまで仏文コースにするつもりはなかったのに、結局仏文に進学したとか、「フランス語」は履修していないけど、ゼミでフランス文化は面白そうだと思って、1年生の後期で仏文コースに決めたという人もいます。Maoさんの先輩に、中国語履修者で、仏文コースに決めた人がいました。彼女は1年次の11月の時点からフランス語の学習を始めたんですが、その意気込みはすごかった。努力した結果、4年生でフランス語力が学年でトップだったんですから。仏文コースでは、大学が企画するフランス夏期研修や長期留学をして語学力を高める人もいるのに、彼女は結局フランスに行かずに、です。仏文コースでは、コースに進学が決まった時点から学生をサポートするので、遅いことはありません。それに、留学しなくても、フランスに関するイベントが多いので、フランスにいるような感覚を持つことができます。もちろん留学する気持ちがあれば、ぜひ交換留学の奨学金に応募してもらいたいですね。仏文コースから毎年、パリのイナルコ大学とスイスにあるジュネーブ大学へ留学生を送っています。フランス語圏からの留学生とのタンデム(交換授業)の提案もしています。
田口:Maoさんは、1年次に私が担当するフランス語の授業を取っていましたよね。
Mao:そうでした。
田口:授業を受けている学生の中には、フランス語は教養ある人なら世界中で話されている、洗練された言語で、オリンピックで第一公用語になっていることを知らない人が、以外と多くいましたね。アフリカなどでは、英語よりもフランス語の方が通じやすいとか、世界を見渡すと、外国語としてフランス語を学習している人が多い、といったようなことも。
Mao:ところで先生は、何でフランス語を勉強しようと思ったんですか。それに大学の先生は研究もするんですよね。
田口:なぜ、と言われても困ってしまうのですが、きっかけはささいなことです。偶然聞いたフランス語が音楽みたいに快かったからフランス語の勉強を始めたとか、読んで面白かった小説や映画がたまたまフランスのものだったからフランス文学をやろうと思ったとか…
研究の話が出ましたが、私は主にフランス語で書かれた文学を研究しています。特に19世紀のロマン派といわれる文学潮流に興味があります。ロマン派の作家は内面の感情を表現することを重視するのですが、中でもネルヴァルという作家はエジプト、レバノン、トルコを廻る旅で異文化に出会って、自分とは何かを問い直しているのが面白いと思って、研究しています。
旅行記ではよく書かれていることなのですが、自分とは相容れない「他者」と向かい合い、理解しようとすることで、結局、自分が何者なのが見えてくる、というプロセスが面白い!
旅から離れて、普段の自分の中にも「他者」が住んでいて、自分でも、自分がわからなくなる時とか、望んでいない行動をとったりすることってないですか。人間って矛盾に満ちた存在で、小説を読むと、それがよくわかります。例えば、「フランス文学各論」という授業では、ミュージカル映画化になった、ユゴー作『レ?ミゼラブル』を読みましたが、登場人物たちの行動には理解できない点も多々ありました。ミュリエル司教に出会って、悪の道から足を洗うだろうと思われたジャン?ヴァルジャンが、どうして少年からお金を盗むのか(あるいは熱にうかされたように、無意識に取ってしまったのかもしれない)など。
Mao:フランス文学はとても読みづらいというか、とっかかりにくいと思う方はたくさんいるのではないでしょうか。私も初めはそう思っていましたが、そんなことはなかったです。フランス文学は、人の感情、心の動きにとても重きを置いて書かれている人間ドラマの小説という感じを受けます。そう、身近なものに例えるならば、昼ドラを小説にしてその心の動きを細やかに描写してあるようなものでしょうか(笑)。少し例えはよくないのかもしれませんが、そう言われればフランス文学も身近に思えてきたのではないでしょうか。フランス文学を読んでいると、なぜそのような行動をするのか不思議に思ったりすることもあると思うのですが、あるところでは人は共感しないかもしれないけれど、自分は主人公と同じように考え行動するだろう、という点に巡り合い自分という人間を鏡で映されてそれを覗いてしまったようなそんなドッキリした感覚を得たりもするのです。ほかの文学にはない特徴だと私は思っています。
田口:昼ドラと言われれば、なるほど、そういう見方も面白いですね。愛とか不倫とか裏切りとか、たしかにテーマ的にもフランス小説にはドロドロした昼ドラの要素満載です。Maoさんが言う「共感しない」というのは、いいところを突いていると思います。自分が「感動する」ことや「納得する」ことしか受け入れないというのでは、社会でやっていけない。多様な人間から成る社会で生きていくのに、「共感できない人」の心の中を、小説から知ることが最良の方法になるかもしれません。そして人はもっと寛容になれるかもしれません。「寛容」と言いましたが、最近ますます寛容でない世の中になってきたという実感があります。「赦す」ことができれば、世の中はずいぶん平和になるのに…
田口:研究テーマの話に戻ると、私は、旅という行動様式にも、旅を書くということにも興味があります。古今東西の旅行記を読むと、今、普通に行われているように、楽しみを求めて旅をするようになったのは、最近のことだということがわかりますし、書かれた時代特有の感性が透けて見えてきます。旅人がいわゆる「異文化」とどのように対峙したかという点を考えることで、現代社会の複雑な問題を解くヒントが得られます。
要するに、私の興味は二つの異質なものが交わるところにあります。観光文化から人間の実存に関わる次元まで、あらゆる事象、表象を掘り下げたい。あるいは、ヨーロッパにある小国スイスは旅行記作家を輩出していますが、その作品がいかにユニークかということを伝えたい。最近では日仏間の交流についての研究も行っています。あるメディアを通してだったり、あるひとりの女性を通してだったり。
田口:最後にMaoさんから、高校生に伝えたいことはありますか。
Mao:大学入学を控えた皆さん、大学生活を豊かにできるかどうかは皆さんの選択次第です。4年間は皆さんが思っているよりもあっという間に過ぎていきます。後悔しない時間の使い方と選択をしてください。そしてこの話で少しでもフランス文学フランス語コースに興味を持っていただけたらうれしいです。きっと充実した大学生活が送れると思います。お待ちしています。
田口:実際に卒業した人からのメッセージだと、説得力が増しますね!
(河辺真緒さんプロフィール:文芸学部文芸学科フランス語フランス文学コース卒業。就職活動では、自分が大学で打ち込んだことをアピールし、金融業界の総合職で活躍中。ポートレートは競技ダンス部で踊った時のもの。)