更新日:2016年04月10日
英語?英語圏文学専修
受験生へのメッセージ(浦野 郁)
私の研究対象は主にイギリス小説です。大学時代に出会った作家E. M.フォースターの作品に感銘を受け、イギリスの大学院に進学し研究を続けました。特に文学作品と、絵画や映画、写真のような視覚文化の関係に関心があります。19世紀の後半から20世紀にかけて、テクノロジーの発達によって、人間の「見る」行為は劇的に変わりました。それまで想像もできなかったものを目にするようになった結果として、「見ること」への関心が増大する一方で、視覚への疑念も生まれます。このことは文学の世界における、目に見える現実を描写する「リアリズム」から、目に見えない人間の内面を描き出そうとする「モダニズム」の文学へ、という志向の変化にも表れています。ちょうどこの転換期に執筆していたヘンリー?ジェイムズ、上記のフォースター、そしてヴァージニア?ウルフ等の作家を取り上げ、博士論文を完成させました。
近年特に関心を持っているのは、ヴィクトリア朝期に大流行した娯楽である「活人画」です。活人画とは、衣装やメイキャップの工夫によって、誰もが知るような有名な絵画の中の人物に「なりきる」遊びです。上流の人々の私的な娯楽として始まり、次第に劇場でも行われるようになって大衆に広まっていきました。19世紀イギリスの新聞には、こうした催しの様子を報じた興味深い新聞記事や写真が多数見つかります。活人画の下敷きとなる絵画には文学作品をモチーフにしたものも多く、また当時の文学作品のなかに活人画の場面が登場し、重要な意味を持つこともあります。活人画という今ではほとんど知られていない娯楽と文学の関係について、研究を進めています。
最近もう一つ関心を抱いているのは、イギリスオペラの世界です。オペラというとイタリアやオーストリアなど、ヨーロッパ大陸の国々を思い浮かべる人も多いと思いますが、20世紀最大のオペラ作家ともいわれるベンジャミン?ブリテンはイギリス人です。『ピーター?グライムズ』、『ビリー?バッド』、『ねじの回転』、『ヴェニスに死す』など、代表作は文学作品を原作に持つものばかりで、日本ではあまり知られていないブリテンの世界を、これからより深く探っていけたら、と思っています。
イギリス文学と文化に関する授業を担当しています。文学の授業には、イギリス文学の流れを歴史的?社会的背景と共に学ぶ文学史の講義と、少人数制で特定の作品をじっくり読み込む演習形式の授業があります。いずれも作品を生み出した時代や作家自身についてよく知ることで、多様な解釈を導くことを心掛けています。文化史の授業では、4年間の留学中に自分が体験したイギリス文化の様々な側面を、出来るだけ分かりやすく身近なものに感じられるよう、映画の一部など映像を多く使いながら紹介しています。短期間ながらアメリカ在住経験もあるので、英米の違いについて触れることもあります。
また近年始まった新しい試みとして、批評理論の授業があります。ポストコロニアル批評やジェンダー批評など、現代社会を読み解く上でも欠かせない思想を紹介し、学生がこれらの批評の考え方を用いて作品を読解出来るようになることを目指しています。難解と思われがちな批評理論を分かりやすく解説したピーター?バリー著『文学理論講義』(ミネルヴァ書房)を、恩師や友人と共訳し授業のテキストに使っています。
3年生?4年生のゼミでは、2万字以上の卒業論文執筆を目指して、各学生の個別の関心に沿った指導を行っています。3年次にはテーマの選び方や資料の探し方、論文の書き方まできめ細かく指導し、4年次には個人指導を多く取り入れて学生生活の集大成としての卒業論文完成を目指します。また、授業の一環として英文コースの卒業生や上級生と交流し、1年後2年後、そして社会人になってからの自分の姿を具体的に思い描き、それに向けて今何をすべきなのかを考えてもらう機会を多く設けています。
文学や芸術は直接世の中の役に立つものではないので、大学ではもっと実学を中心に学ぶべきだ、という声がよく聞かれますが、本当にそうでしょうか。実際的な役に立つものばかりの世の中は、潤いがなく寂しいものだと思いませんか。学生時代に優れた文学作品や芸術に多く触れ、豊かな感受性や柔軟な想像力?思考力を身につけることこそが皆さんの人生を、そして長い目で見れば社会を良くすることに繋がる、そのように考えている教員が集まっているのが文芸学部だと思います。
世界一の本屋街と言われる神保町に位置する本学は、文学を学ぶには絶好の環境にあると思います。私自身、よく授業の合間に界隈を散策し、未知の作品と心弾む出会いをすることがあります。本好き、イギリス好き、あるいは今は英語や英語圏に関心があるだけでも構いません。このページを開いて下さった皆さんと、この地で一緒に学べる機会を楽しみにしています。
イギリス留学ゆかりの品々 |