Faculty of International Studies
更新日:2016年07月01日
フランス映画『奇跡の教室』特別試写会&公開シンポジウムのお知らせ
国際学部は、科研基盤研究(B)「ヨーロッパにおける公共史の実践」との共催で、来る7月30日(土)午後2時から、8月6日よりロードショーとなるフランス映画『奇跡の教室』の先行特別試写会と、フランスと日本の高校歴史教員をゲストとしてお招きして、両国の歴史教育の実践にかんするシンポジウムを開催します。
『奇跡の教室~受け継ぐ者たちへ』(原題Les Héritiers)は2014年にフランスにおいて公開された、実話にもとづく映画であり、さまざまな映画祭で受賞、あるいはノミネートされています(PDFのパンフレットやリンクを参照)。
舞台はパリ郊外の高校、様々な出自を持つ、「多文化社会」フランスの縮図のようなクラス。ここから、2008年(日本では2010年)に公開された『パリ20区、僕たちのクラス』(原題Entre les murs)を想起する人もいるでしょう。こちらでは主役は中学(コレージュ)の国語の男性教員であったのに対し、『奇跡の教室』では高校(リセ)の女性歴史教員です。ただし、『パリ20区』でも『アンネの日記』が自己分析のきっかけとして登場する一方(前年のアメリカ映画『フリーダム?ライターズ』でもそうですが)、『奇跡の教室』では、まさに「強制収容所における子どもや若者たち」が全国コンクールのテーマであり、こちらはより直接的にショアー(ホロコースト)がテーマとなっています。
ホロコーストをテーマとした全国コンクールと映画、ということで想起されるのが、1990年に公開されたドイツ映画、『恐るべき少女』(日本未公開、原題Das schreckliche Mädchen、英語版The Nasty Girl)です。この映画もまた実話にもとづく作品ですが、ここでは「第三帝国時代のわが町」というテーマで、ナチスに対する抵抗の誇るべき歴史を書こうとした女子高生が、調べていくうちに住民たちの忘却したい過去(ナチ体制への同調、密告、ユダヤ人追放による受益)を暴き出そうとするものとみなされ、無視、敵意、妨害、攻撃に遭う姿が描かれています。また、こちらはアメリカでの実話からの翻案ですが、ドイツで2008年に映画化された『ウェイブThe Wave』(日本語版DVDあり、原題Die Welle)では、高校での『独裁制』についての実験的授業が暴走し、ついには死者まで出てしまう、という悲劇的な結末を迎えます。
『奇跡の教室』は、いわゆる「郊外Banlieu」の移民や低所得者層の家庭の子供たちが通う学校の実情を描きつつも、ストーリー自体は楽観主義で、副題が示唆するように希望を与える内容になっています。もちろん、昨年のパリでの二度にわたる凄惨なテロを挙げるまでもなく、現実は楽観的なものからほど遠い状況です。また、本作品のクライマックスともいえる場面に登場する、アウシュヴィッツとブーヘンヴァルトの2つの強制収容所を生き延びた証言者レオン?ジーゲルは、昨年1月に87歳で死去しています。体験者との出会いが心を動かしうる時間はほとんど残されていません。そうしたなか、「奇跡」とは何なのか、「受け継ぐ」ということは何なのか、結末のカタルシスの一方で、重い問いを残す作品であるともいえます。
翻って日本もまた、最近のヨーロッパにおける難民?移民問題を他山の石のように眺める風潮の一方で、東アジア諸国との歴史認識や、ヘイトスピーチなど、他人事ではない問題を抱えています。こうした状況に、(大学を含めた)歴史教育はどのような貢献をなしうるのでしょうか。
そこで今回の企画では、第一部では配給会社(株式会社シンカ様)のご厚意によって、封切り直前の『奇跡の教室』を上映し、第二部では、フランスで長年歴史教員として実情を知悉し、歴史教員の団体の事務局長を務められているユベール?ティゾンさんにフランスにおけるショアーの教育についてお話しいただき、日本において「加害の歴史の教育」に取り組まれている山田耕太さんにコメンテーターをお願いしました。この機会が、東アジアとヨーロッパの間の情報、意見交換の場になることを願っています。
学生のみなさんは、前期最終日で心はすでに夏休みとなっているころだと思いますが、ここでの刺激が、夏休みをより有意義に過ごすきっかけになるかもしれませんので、ぜひ多くの人に参加してもらえれば幸いです。